【Book】怪獣と美術−成田亨と造形芸術とその後の怪獣美術−

相原一士、富田智子、江尻潔 編、
東京新聞 刊、
怪獣デザインにみる造形美。


 現在、三鷹市美術ギャラリーで開催中の同名美術展の資料・図録。
 本美術展では、「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の美術監督として多数の怪獣、宇宙人、小道具のデザインを手がけた成田亨の作品を中心に、成田亨のデザインを具現化した高山良策ウルトラセブン後半で円谷プロを去った成田亨の後を継ぎ怪獣デザインを手がけた池谷仙克、近年の作品で特殊造形を手がける原口智生の作品を紹介している。
 成田亨は、1954年、25歳の時に「ゴジラ」の特殊造形のアルバイトを行ったのがきっかけで映画美術の世界に足を踏み入れた。前述の代表作の他、「ウルトラQ」「マイティジャック」「突撃!ヒューマン!!」「円盤戦争バンキッド」などでもデザインを手がけ、その他多くの作品で特撮美術監督特技監督を務めている。
 彫刻家としての活動でも知られ、1955年~1971年までの16年間中13回、新制作協会主催の「新制作展」に出展、「新作家賞」も受賞している。また、1970年の大阪万国博覧会で展示された「太陽の塔」内部に製作された「生命の樹」にも協力している。


 本美術展での見所はやはり、成田亨の手がけたデザイン画である。既存の生物や神獣・妖怪のデザインを研究し尽くした上で、それらの模倣とならないように独自性を打ち出し、彫刻家として培った抽象性を盛り込んでいる。
 成田亨は、芸術家でありながら商業デザインとしての観点も疎かにしておらず、「子供向け番組であること」と「SF作品であること」から、以下のような大原則を自ら掲げていた。


1.怪獣は怪獣であって妖怪(お化け)ではない。だから首が二つとか、手足が何本にもなるお化けは作らない。
2.地球上のある動物が、ただ巨大化したという発想はやめる。
3.身体がこわれたようなデザインをしない。脳がはみ出たり、内蔵むき出しだったり、ダラダラ血を流すことをしない。
※「特撮美術」(フィルムアート刊)


 神話・伝説に登場するもの以来、人類が考え出したほとんどの怪獣はこれらの要素を持っており、この原則を守ってデザインすることは困難であったが、健全な子供番組を作るために遵守しようとしたと著作の中で成田亨は述懐している。
 特に3.のような生理的嫌悪感に基づく恐怖ではない驚きを与えるためにとったデザイン上の工夫として、プロポーションやパーツ形状の意外性などを重視しているが、個人的には以下のような特長を持つデザインが素晴らしいと思う。


・反転
 シャドー星人の鼻、ザラブ星人、ヒューマンの目、テーバス中尉の頭部など。本来の形状を反転させたり、あるべきものがない状態にするデザイン。


・抽象
 ブルトン、ダダ、ブランカー、チブル星人など。抽象的立体、抽象的模様に基づくデザイン。
 ウルトラセブンやマイティジャックに登場するメカなども、既存の航空機等にない、造形物として特異な形状を持つ。


・機械・金属
 ナース、ウィンダム、キングジョー、ユートムなど。金属光沢や鋭角的デザインが好みだったようで、龍をモチーフにしながら金属的なアレンジのナースのようなデザイン。


 本美術展で1点残念だったのは、新制作展出展作が「翼をもった人間の化石」1点のみであったことである。1983年の「成田亨作品展」では数点を見ることができたが、なんらかの事情により現存しないらしい。図録には「翼をもった人間の化石」
含む9作品の写真が収録されている。