【Memo】モンスター群

■概要
 本エントリは、友人一名からのリクエストによって書かれています。
 「年刊日本SF傑作選 超弦領域」(大森望日下三蔵 編、創元SF文庫刊)収録作品「ムーンシャイン」(円城塔 著)に登場する数学概念「モンスター群」に関連する情報です。


■群について
 「群」とは代数学の基本概念で、集合の種類・性質と思ってください。


前提:
 ある集合G上の「二項演算」とは、Gの元(要素)a、b、cについて、a * b = cのような関係「*」を表す。
→加法(足し算)、乗法(掛け算)のようなものと考えればよい。


群の定義:
 ある集合Gと、G上の演算*を考えた場合、Gが群である(正確には、Gは*について群を成す)とは、以下のように定義する。


1.結合法則の成立
 Gの任意のa、b、cについて、a*(b*c) = (a*b)*cが成り立つ。
2.単位元の存在
 Gの任意の元aについて、a*e = e*a = aが成立する元eが存在する。
3.逆元の存在
 Gの任意の元aについて、a*x = x*a = eが成立する元xが存在する。


例:
・実数の集合は、加法に対して群を成す。単位元は0。aの逆元は「-a」。
・整数の集合も、加法に対して群を成す。単位元、逆元は同上。
・実数の集合は、乗法に対して群を成す。単位元は1。aの逆元は「1/a」。
・整数の集合は、乗法に対して群を「成さない」。


 各種数集合は次のような関係があります。

自然数は、人間が物を数えるために編み出した最初の数概念。
・加法は、人間が物の数の増加を考えるために編み出した最初の二項演算。
自然数を加法について群を成すように単位元・逆元を導入したものが整数。
・乗法は、人間がさらに高度な計算を行うために編み出した二番目の二項演算。
 ※減法は、加法の逆演算であり本質的には加法と変わらない。
 ※乗法は、加法の繰り返しを簡便に行う計算方法。
・整数を乗法について群を成すように逆元を導入したものが有理数
・その後なんだかんだあって実数、複素数四元数と拡張されていく。


■群の性質
 群について色々な性質を持つものに名前をつけて研究するのが群論です。
 たとえば比較的簡単なものには次のようなものがあります。


部分群:
 ある集合Gが二項演算*について群を成しているとき、Gの部分集合Hが*について群を成すなら、HをGの部分群と呼ぶ。
 例えば、整数の集合の部分集合{-1, 0, 1}は群となるので、整数の部分群。


自明な部分群:
 任意の群Gについて、G自身、及び単位元のみからなる集合{e}は当然のごとく部分群となるので、「自明な部分群」と呼ぶ。


有限群:
 元の個数が有限な群。
 例えば、上記の{-1, 0, 1}は要素が3個のみなので部分群。


正規部分群
 群Gの部分群Nが「正規部分群」であるとは、Gの要素a、aの逆元bについて、aNb=Nとなること。
 例えば、上記の{-1, 0, 1}は要素は正規部分群


単純群
 群Gが自明でない正規部分群を持たないとき、Gを単純群と呼ぶ。


■モンスター群について
 有限単純群は、数学的研究によりその性質から4種に分類されることが判明している。それらの内3種は18の無限系列からなり、残りは26個の散在型単純群と呼ばれる種類である。
 この散在型単純群の中で最大個数の元を持つものが「モンスター群」であり、モンスター群が持つある特殊な性質が「ムーンシャイン現象」と呼ばれる事象である。
 ムーンシャイン現象は長らく証明されず「予想」の位置づけであったが、近年、1992年に証明された。この証明の過程でモンスター群と楕円曲線及び弦理論との関連性が明らかにされた。


19世紀後半 整数論群論の重要概念の一つである保型関数を、デデキント、クラインらが構成。
1973年 最大個の元を持つ散在型有限単純群ケンブリッジ大学の研究で示される。コンウェイによりモンスター群と命名
????年 保型関数級数展開の係数と、モンスター群の次元数との間に、奇妙な関連性があることが判明。数学的証明には至らないが、さまざまな性質の収集、予想が成された。
 「ムーンシャイン予想」(スラングで「馬鹿げた考え」)については、証明した者に「バーボン1本が与えられる」という懸賞が付く。
1992年 リチャード・ボーチャーズ、ムーンシャイン予想を証明。この証明において、現代物理学の弦理論に関係の深い頂点作用素代数を応用している。従来特に関係がないと思われていた古典的数学概念と現代物理学上の概念が結びついたことで驚嘆された。
1998年 リチャード・ボーチャーズ、同上の功績によりフィールズ賞を獲得。25年もののバーボンを受け取ったかどうかは不明。